📋 要約(TL;DR)#
- 金属粉末床溶融結合では、熱伝導だけでなく、溶融金属の流動、表面張力勾配、蒸発反力、凝固、熱弾塑性が連鎖する。単一の温度場だけでは欠陥と変形を同時に説明できない。
- 体積エネルギー密度はDOEの入口として便利だが、吸収率、ビーム形状、粉末状態、走査履歴、表面流れを消去するため、キーホールや溶融不足の判定基準にはならない。
- 高忠実度の自由表面熱流体モデルと、部品全体の熱機械モデルは役割が異なる。微視的モデルで欠陥機構を識別し、巨視的モデルで残留応力・変形を評価する逐次構成が現実的である。
- COMSOLの公開LPBF資料は、マルチスケール熱伝達モデルと固有ひずみ法による部品スケールモデルを組み合わせ、実験との比較を前提にしている。これは一つの巨大な連成モデルを作ることとは異なる。
- 導入判断のKPIは解析の見かけの精細さではなく、欠陥率・溶融池寸法・温度履歴・残留応力・変形のどこを、どの測定不確かさで再現できるかで決めるべきである。
金属積層造形の工程最適化では、レーザー出力、走査速度、ハッチ間隔、層厚、予熱、走査戦略などを変えながら、密度、表面状態、組織、強度、残留応力、変形を同時に制約する必要がある。ところが、これらの目的量は異なる時空間スケールの物理から生じる。レーザー照射直下では熱伝導と溶融金属の対流が支配的になり、表面では蒸発と表面張力勾配が流れを変え、凝固後には熱収縮と拘束が応力を残す。
採用候補のCOMSOL Multiphysics公式ページが示す中心概念は、物理を別々に計算することではなく、必要な第一原理を整合的に結合して設計対象を評価することである。積層造形に適用する場合、その言葉を「すべての物理を一つの高忠実度モデルへ詰め込む」と解釈すると、計算量、材料物性、境界条件、検証データがすぐに不足する。重要なのは、何を同時に解くべきか、何を逐次的に渡せるか、どの出力を実験で閉じるかを分けることにある。
以下では、金属粉末床溶融結合を主対象に、公開された公式技術資料と査読論文を照合する。ベンダーの技術資料は実装例と適用可能な構成を示すが、特定の材料・装置・条件での一般的な性能保証ではない。査読論文の結果も、対象材料とモデル仮定の範囲を超えて外挿できない。この区別を保ったまま、研究開発と航空宇宙部品のCAE運用に使えるモデル選択の軸を整理する。
工程を設計変数、局所の状態量、部品の応答、材料特性へ分解すると、解析の役割が見えやすい。レーザー条件は温度・流速・相分率を変え、これらが溶融池の形、凝固の方向、再溶融の履歴を決める。部品スケールでは、その履歴が熱ひずみ・塑性ひずみ・拘束条件を通じて変形と応力へ集約される。局所で観測できない応力を局所モデルだけで答えようとしたり、部品全体の平均温度からキーホールを推定したりすると、因果の途中を飛ばすことになる。
1. マルチフィジックスを「巨大な一体モデル」と誤解しない#
COMSOLの公式説明では、マルチフィジックスは複数の相互作用する物理現象を計算機上で扱う考え方であり、輸送現象、電磁場、固体力学などを基礎から組み合わせる。LPBFでは、レーザーの吸収が熱源を作り、温度場が粘度、表面張力、相分率、物性値を変え、溶融池の流れが熱を運ぶ。凝固後の温度履歴は熱膨張・収縮と塑性変形を通じて残留応力と反りへつながる。この因果鎖が、単純な熱伝導解析との差である。
ただし、すべてを同一メッシュ・同一時間刻みで解くことが最適とは限らない。表面の自由境界と蒸発を含む溶融池モデルは局所の機構理解に向く一方、部品全体の層積みをそのまま再現すると計算資源と入力物性が膨らむ。公式ブログの積層造形事例も、メッシュの活性化、適応再メッシュ、逐次シミュレーションを使って、時系列の熱力学状態を分けて扱う方針を説明している。
ここで重要なのは、逐次解析が物理を捨てる近似ではなく、情報の受け渡しを明示する設計だという点である。局所モデルからは溶融池寸法、温度勾配、凝固速度、固液界面の移動を渡し、部品モデルへは熱源履歴、等価熱入力、固有ひずみ、または校正済みの材料応答を渡す。逆に、部品モデルの平均応力から局所のキーホール挙動を直接復元することはできない。スケールをまたぐ出力の意味を定義しない限り、連成は単なるデータ受け渡しになる。
したがって、導入時の最初の設計書には、対象の長さ・時間スケール、未知量、入力物性、受け渡し変数、検証測定を記載する必要がある。モデルの名称やソフトウェア機能の数ではなく、工程のどの判断をどの物理量で支えるかが、マルチフィジックスの境界を決める。
この分解は、連成の強さを三つに分けると理解しやすい。温度が物性を変えるが流れが温度場へ大きく戻らない場合は弱連成として反復を減らせる。表面張力や蒸発反力が流れと温度へ即時に戻る場合は強連成であり、同一ステップ内の反復が必要になる。層をまたぐ熱履歴と部品変形は、局所解析から部品解析へ状態を渡す一方向の逐次連成にできる。この分類を先に決めれば、モデルの大きさと必要な検証データを見積もりやすい。
参照:
- https://www.comsol.com/multiphysics
- https://www.comsol.com/blogs/advancing-additive-manufacturing-with-sequential-simulations
- https://www.comsol.com/paper/simulation-of-laser-powder-bed-fusion-additive-manufacturing-process-using-the-comsol-multiphysics-software-65242
2. LPBFの最小物理:熱・流れ・相変化を一つの因果鎖で読む#
熱流体モデルの最小形は、液相の速度場を含むエネルギー保存式で表せる。概念的には、ρcₚ(∂T/∂t+u・∇T)=∇・(k∇T)+Q_laser−ρL∂f_l/∂t である。密度ρ、比熱cₚ、熱伝導率kは温度と相に依存し、uは溶融池内の流速、Lは潜熱、f_lは液相率を表す。固相では流れを止めた熱伝導に近づくが、液相では対流項を落とすと溶融池の形と温度履歴を誤る。
自由表面では、温度勾配に伴う表面張力勾配がマランゴニ流を作る。表面の接線応力は概念的に∂γ/∂T・∇ₛTで表され、∂γ/∂Tの符号、酸素や合金元素、表面状態に依存して流れの向きが変わる。高温域で蒸発が強くなると、反跳圧力が液面を押し下げて凹みを形成し、レーザーの多重反射と組み合わさってキーホール状の溶融池になる。公式のLPBF資料でも、熱移動・流動・相場に加えて、蒸発を圧力モデルまたは運動量モデルとして扱う差が論点になっている。
凝固では、液相率だけでなく、温度勾配Gと固液界面の移動速度Rが組織形成に関係する。G/Rは形態の傾向、G・Rは冷却の強さを読むための指標になるが、実際の合金組織を決めるには核生成、合金元素の偏析、結晶方位、再溶融、熱履歴が必要である。したがって、温度場を得ただけで柱状晶、等軸晶、析出状態、疲労寿命を一意に予測できるわけではない。
この因果鎖から、モデルで最低限報告すべき出力も決まる。ピーク温度だけでは不十分で、溶融池の幅・深さ・長さ、液相滞留時間、冷却速度、温度勾配、表面速度、再溶融回数を、測定可能な定義で保存する必要がある。出力を増やすことが目的ではなく、欠陥、組織、応力のどの仮説を検証する値かを明示することが目的である。
モデルの比較には、単位をそろえた無次元数が役立つ。熱の移流と拡散の比はPe=vL/α、相変化に必要な顕熱と潜熱の比はSte=cₚ(Tₘ−T₀)/Lで表せる。Peが大きい条件では走査による熱の運搬を無視しにくく、Steが小さい条件では相変化の潜熱が熱履歴を長く支配する。ただし、これらは材料と代表長さの選び方に依存し、キーホールの合否閾値を与える数ではない。表面流れの影響を評価する場合も、マランゴニ数などを使って感度を整理し、最終的には自由表面形状と断面観察で確認する必要がある。
参照:
- https://www.comsol.com/paper/thermal-analysis-of-additive-manufacturing-19587
- https://www.comsol.com/paper/benefit-of-vapor-consideration-for-lpbf-additive-manufacturing-process-simulation-122681
- https://doi.org/10.1016/j.actamat.2016.02.014
- https://doi.org/10.1063/1.4937809
3. 定量比較:目的量に応じてモデル階層を選ぶ#
同じLPBFでも、求める出力によって必要な物理と計算量は異なる。実務では、モデル忠実度を一つの序列として扱うより、目的量に対する十分条件として選ぶ方が合理的である。下表の計算負荷は絶対時間ではなく、未知量、自由表面、非線形物性、時間刻み、全層を解くかどうかで増える相対的な負荷を表す。装置、材料、メッシュ、収束条件が違うため、文献やベンダーの処理時間を案件へ移植してはならない。
| モデル階層 | 主な未知量・支配式 | 定量的に比較する出力 | 計算負荷と適用範囲 |
|---|---|---|---|
| 条件指標 | P、v、h、tから作るEᵥ | 条件の順位、DOEの代表点 | 最小。物理機構の識別には不足 |
| 熱伝導 | 温度、相変化、移動熱源 | 溶融範囲、温度履歴、冷却速度 | 低〜中。熱源と境界の校正が支配 |
| 熱流体 | 温度、速度、圧力、自由表面、相分率 | 溶融池形状、表面速度、キーホール、蒸発影響 | 高。自由表面と強非線形物性が支配 |
| 部品熱機械 | 温度履歴、変位、応力、塑性または固有ひずみ | 反り、残留応力、支持除去後の変形 | 中〜高。全層再現か縮約かで変わる |
| 組織・相変態 | 相分率、濃度、核生成、結晶方位 | 凝固形態、偏析、相組成 | 高〜極高。合金固有のモデルと測定が必要 |
この表は、上位階層ほど常に正しいという意味ではない。部品全体の反りを予測するために局所の自由表面を全域へ持ち込む必要はなく、逆にキーホール気孔の原因を調べるために部品全体の弾塑性を解く必要もない。モデルの妥当性は、出力の目的、入力の不確かさ、独立測定の有無を掛け合わせて判断する。
同じ条件集合を各階層へ入力し、出力を比較可能な形へ揃えることが実務上の要点になる。熱伝導と熱流体で溶融池幅・深さを比較し、局所モデルから得た熱履歴を部品モデルへ渡し、変形と残留応力を測定と比較する。モデル階層を上げたときに予測誤差が測定不確かさを下回るのか、それとも説明できる現象だけが増えるのかを確認することが、計算資源の投資判断になる。
参照:
- https://www.comsol.com/paper/thermal-analysis-of-additive-manufacturing-19587
- https://www.comsol.com/paper/simulation-of-laser-powder-bed-fusion-additive-manufacturing-process-using-the-comsol-multiphysics-software-65242
- https://doi.org/10.1016/j.pmatsci.2017.10.001
4. 体積エネルギー密度は入口であり、欠陥判定器ではない#
工程条件の一次比較には、体積エネルギー密度Eᵥ=P/(vht)がよく使われる。Pはレーザー出力、vは走査速度、hはハッチ間隔、tは層厚である。同じ単位系なら、投入エネルギーを単位体積へ割り当てる指標として扱えるため、DOEの条件整理や初期スクリーニングには便利である。
しかし、Eᵥは吸収率、ビーム半径と強度分布、粉末の充填状態、反射、熱伝導、基板への熱流出、走査の重なり、液面の反跳圧力を消去する。Pとvの比が同じでも、広い低強度ビームと狭い高強度ビームでは表面温度と蒸発の起こり方が異なる。hとtを含めても、前トラックの予熱、冷却、再溶融履歴は一つのスカラーに畳み込まれる。
欠陥を読むには、熱流体の状態量へ戻る必要がある。溶融不足では、隣接トラックや層の重なりが足りず、未溶融領域が残る。キーホールでは、深い蒸発凹みと自由表面の不安定化が、気泡の捕捉やスパッタへつながる。さらに、粉末の飛散や周囲粉末の加熱領域は、単純な温度ピークでは区別できない。溶融池の寸法、表面形状、流速、蒸発反力、凝固後の空洞位置を、X線画像、断面観察、溶融池モニタなどの独立データと比較する必要がある。
| 比較軸 | 体積エネルギー密度 | 熱伝導モデル | 熱流体・自由表面モデル |
|---|---|---|---|
| 入力 | P、v、h、t | 熱物性、吸収、熱源、境界熱伝達 | 左記に加え、粘度、表面張力、蒸発、自由表面 |
| 得意な出力 | 条件の粗い整理 | 温度履歴、溶融範囲、冷却傾向 | 溶融池形状、流れ、キーホール、スパッタ機構 |
| 失う情報 | 履歴と局所分布 | 表面流れと蒸発反力 | 物性・境界条件の不確かさが増える |
| 使いどころ | 初期DOEと条件の絞り込み | 材料・装置固有の熱履歴評価 | 欠陥機構の識別と高忠実度の局所検証 |
査読研究では、溶融池流動、気孔、スパッタ、デヌデーション領域を、熱と流体の相互作用として扱う必要性が示されている。別の研究はキーホールモードの観測を扱い、流れの機構を欠陥と切り離せないことを示す。したがって、Eᵥを合否閾値へ昇格させるのではなく、条件の代表点を高忠実度モデルと実験へ送る選別指標として使うべきである。
Eᵥを設計変数として使うときは、何を固定した比較かを明記する必要がある。ビーム径、焦点位置、粉末層の状態、基板温度、走査方向、トラック間の待ち時間が固定されていなければ、同じEᵥでも異なる熱履歴が得られる。薄肉部、角部、支持近傍では熱の逃げ方が変わるため、バルク試験片の工程窓を部品へ直接移すこともできない。
参照:
- https://doi.org/10.1016/j.actamat.2016.02.014
- https://doi.org/10.1016/j.jmatprotec.2014.06.005
- https://doi.org/10.1016/j.actamat.2015.06.004
- https://doi.org/10.1063/1.4937809
5. ミクロから部品へ:逐次解析と固有ひずみの役割#
LPBFの局所モデルが返す温度履歴を、部品全体の熱機械解析へ受け渡すとき、二つの選択肢がある。全トラック・全層を熱弾塑性で再現する方法は直接的だが、モデルサイズと計算時間が大きくなり、材料の温度依存塑性、クリープ、相変態、接触、基板拘束まで整備する必要がある。もう一つは、局所解析または実験で校正した固有ひずみを、部品スケールの弾性解析へ入力する方法である。
応力の概念式はσ=C:(ε−εᵗʰ−εᵖ−εⁱ)と書ける。Cは剛性、εは全ひずみ、εᵗʰは熱ひずみ、εᵖは塑性ひずみ、εⁱは固有ひずみである。固有ひずみは、溶融・凝固、塑性緩和、熱履歴、拘束の結果を等価的に表す項であり、物理現象そのものの普遍的な材料定数ではない。スキャン戦略、材料、板厚、予熱、支持条件が変われば再校正が必要になる。
COMSOLが公開するLPBF技術資料は、微視的な熱伝達モデルで多層・多トラックの溶融を扱い、溶融不足による気孔と造形密度を推定した上で、部品スケールの固有ひずみ法により変形と残留応力を効率的に推定する構成を示している。資料では、溶融池寸法に基づく校正と、残留応力・変形の実験比較を検討している。この構成は、局所モデルと部品モデルの役割を分ける実務的な例だが、公開資料の記述だけから任意の材料や装置に対する精度を保証するものではない。
受け渡しで注意すべきなのは、平均温度だけを渡さないことである。少なくとも、層ごとの熱入力、冷却履歴、再溶融、境界拘束、材料の方向依存性、固有ひずみの空間分布を、部品の座標系と版管理情報に紐付ける必要がある。部品解析の検証は、変形量だけでなく、残留応力の位置・符号・深さ方向分布と、測定方法の不確かさを含めて行う。
固有ひずみ法を使う場合、校正は一つの部品の反りを合わせるだけでは足りない。少なくとも、別の走査方向、異なる肉厚、支持条件の違い、代表的な温度境界で、予測が同じ傾向を保つかを確認する必要がある。最適化対象が変形だけなら残留応力の分布を外している可能性があり、応力だけを合わせれば支持除去後の解放変形を再現できない可能性がある。出力ごとに校正データと受入れ基準を分けることが重要である。
参照:
- https://www.comsol.com/paper/simulation-of-laser-powder-bed-fusion-additive-manufacturing-process-using-the-comsol-multiphysics-software-65242
- https://doi.org/10.1063/1.4937809
- https://doi.org/10.1016/j.pmatsci.2017.10.001
- https://www.comsol.com/blogs/advancing-additive-manufacturing-with-sequential-simulations
6. 解析の限界:物理を追加するほど不確かさも増える#
高忠実度モデルは、現実に近いという理由だけで信頼できるわけではない。入力する熱伝導率、粘度、表面張力の温度係数、吸収率、蒸発特性、粉末充填率、接触熱抵抗、相変態の速度則が不確かなら、方程式を増やしても出力の不確かさは減らない。特に高温の自由表面は、酸化、合金元素の蒸発、粉末形状、保護ガス流れに敏感で、文献物性を別の装置へ転用すると誤差の原因になる。
数値誤差も別に管理する必要がある。移動熱源の時間刻みが粗ければピーク温度と溶融池深さを平滑化し、メッシュが粗ければ急な温度勾配と自由表面形状を解像できない。反対に、全域の細密化は計算量を増やすだけでなく、校正すべき自由度を増やす。メッシュ収束、時間刻み収束、熱源モデルの感度、境界条件の感度を、目的量ごとに確認するのが妥当である。
検証と妥当性確認は分けるべきである。検証は、離散化した方程式を正しく解いているかを、保存則、既知解、メッシュ収束で確かめる。妥当性確認は、現実の装置・材料・条件に対して、溶融池寸法、温度履歴、密度、組織、残留応力、変形が測定と一致するかを確かめる。単一の溶融池幅だけで校正したモデルを、別の走査戦略や複雑形状へそのまま使うことは妥当性確認にならない。
実務の受入れ基準は、平均誤差だけでなく、危険側の誤差とランキングの安定性を含めるべきである。例えば、欠陥を見逃す確率、残留応力の最大値を過小評価する傾向、支持除去後の変形の符号、材料ロット変更後の再校正頻度を別々に記録する。モデルが不確かな領域へ入ったときに、追加の高忠実度解析や試験へ戻すフォールバックを設計して初めて、マルチフィジックスは設計判断へ接続できる。
不確かさは、少なくとも物性・境界条件・幾何と粉末・数値離散・モデル形式・測定の五つへ分けて記録できる。吸収率が不確かなまま熱源出力を調整すると、溶融池寸法は合っても温度履歴や蒸発量がずれる。熱伝達境界を固定しすぎると、基板近傍の温度勾配と部品全体の変形が誤る。このような補償誤差は、単一の出力だけを見た校正では検出しにくい。溶融池幅、深さ、冷却履歴、残留応力を同時に評価し、異なる測定が同じパラメータを支持するかを確かめる必要がある。
参照:
- https://doi.org/10.1063/1.4937809
- https://doi.org/10.1016/j.pmatsci.2017.10.001
- https://doi.org/10.1016/j.actamat.2016.02.014
- https://www.comsol.com/paper/benefit-of-vapor-consideration-for-lpbf-additive-manufacturing-process-simulation-122681
7. 航空宇宙・材料開発での導入判断を実験計画に落とす#
最初の用途は、認証対象の最終判定より、設計空間を縮約し、実験点を選び、原因仮説を比較する工程が適している。材料開発なら、合金組成、粉末状態、熱処理、予熱、走査条件を入力に、溶融池寸法や熱履歴を中間指標として整理する。航空宇宙部品なら、支持配置、走査戦略、部品姿勢、局所肉厚を変え、変形と残留応力が問題になる領域を先に絞る。どちらも、最終的な疲労、損傷許容、寿命の承認根拠は、独立した試験と規定の解析へ戻す。
PoCでは、次の四つのモデルを混ぜずに比較するとよい。第一に、体積エネルギー密度による条件整理。第二に、移動熱源を持つ熱伝導モデル。第三に、代表点だけの熱流体・自由表面モデル。第四に、校正済み固有ひずみを使う部品熱機械モデルである。評価するのは、モデルの美しさではなく、同じ実験予算で、欠陥・温度履歴・変形・残留応力の予測がどれだけ意思決定を変えたかである。
| 導入段階 | 主な目的 | 最低限のゲート |
|---|---|---|
| 条件の整理 | DOEの範囲を狭める | 入力定義、単位、装置条件、再現性 |
| 局所機構の解明 | 溶融不足・キーホール・スパッタの仮説検証 | 溶融池形状、熱履歴、欠陥観察との照合 |
| 部品設計の補助 | 変形と残留応力の順位付け | 固有ひずみの校正、独立形状での確認、危険側誤差の把握 |
| 品質・認証への接続 | 工程窓と証跡の確立 | 材料ロット、装置版、解析版、試験結果、承認者の追跡 |
管理職が承認すべき投資は、ソフトウェアの機能一覧ではなく、データと検証の流れである。材料カード、粉末ロット、装置の光学条件、走査ファイル、熱画像、断面、CT、残留応力測定、機械試験を同じ部品識別子へ結び付ける。これがないまま物理を追加すると、モデル差とデータ差の原因分離ができない。反対に、検証可能な中間出力とフォールバックを先に定義できれば、局所の高忠実度解析と部品スケール解析を段階的に組み合わせられる。
PoCのKPIは、推論の速さではなく、同じ実験予算で意思決定がどれだけ変わったかに置く。例えば、代表条件の高忠実度解析数、欠陥仮説を絞るまでの試験数、上位候補の再解析率、残留応力と変形の危険側誤差、材料ロット変更後の再校正回数を追跡する。解析を追加した結果、候補の順位が安定したのか、未知領域を早く見つけられたのかを、従来手法と同じ評価軸で比較する必要がある。
参照:
- https://www.comsol.com/multiphysics
- https://www.comsol.com/paper/simulation-of-laser-powder-bed-fusion-additive-manufacturing-process-using-the-comsol-multiphysics-software-65242
- https://doi.org/10.1016/j.pmatsci.2017.10.001
- https://doi.org/10.1016/j.actamat.2015.06.004
🎯 実務への示唆#
- 材料・プロセス研究では、体積エネルギー密度を条件整理に使い、代表点を熱流体モデルと実験へ送る二段階のDOEに分ける。
- 溶融不足、キーホール、スパッタ、凝固組織、残留応力は発生機構が異なるため、単一の温度ピークや単一の品質指標で統合しない。
- 局所の高忠実度モデルと部品スケールの固有ひずみモデルは代替関係ではなく、異なる目的量を受け持つ逐次解析の構成要素である。
- 固有ひずみは普遍的な材料定数ではなく、材料、装置、走査、拘束、熱処理に依存する校正量として管理する。
- 導入評価では平均誤差だけでなく、危険側の誤差、材料ロット変更への頑健性、独立試験との一致、フォールバック発動率をKPIに含める。
- 航空宇宙の高影響部品では、解析・試験・材料履歴・承認記録を部品識別子で結び、モデル出力だけでなく証跡を品質体系へ組み込む。
💭 まとめ#
金属積層造形のマルチフィジックス解析で問うべきなのは、どれだけ多くの物理を一度に解いたかではない。熱源から溶融池流動、凝固、熱収縮、残留応力へ続く因果鎖のうち、設計判断に必要な部分を選び、局所モデルと部品モデルの間で意味のある量を受け渡せるかである。体積エネルギー密度は入口、自由表面熱流体は欠陥機構の確認、固有ひずみは部品変形の実務モデルというように役割を分ける。採用の判断軸は、代表条件での測定可能な妥当性確認、危険側誤差の管理、材料・装置変更時の再校正、そして独立解析・試験へ戻れる証跡である。 判断の単位を「物理を追加したか」から「不確かな設計候補をどれだけ早く、再現可能にふるい分けたか」へ移すことが、研究開発と品質保証を両立させる。
📚 参考リンク#
- https://www.comsol.com/multiphysics
- https://www.comsol.com/blogs/advancing-additive-manufacturing-with-sequential-simulations
- https://www.comsol.com/paper/thermal-analysis-of-additive-manufacturing-19587
- https://www.comsol.com/paper/simulation-of-laser-powder-bed-fusion-additive-manufacturing-process-using-the-comsol-multiphysics-software-65242
- https://www.comsol.com/paper/benefit-of-vapor-consideration-for-lpbf-additive-manufacturing-process-simulation-122681
- https://doi.org/10.1063/1.4937809
- https://doi.org/10.1016/j.actamat.2016.02.014
- https://doi.org/10.1016/j.jmatprotec.2014.06.005
- https://doi.org/10.1016/j.actamat.2015.06.004
- https://doi.org/10.1016/j.pmatsci.2017.10.001
本記事は公開情報をもとに編集されています。重要な判断には一次情報をご確認ください。